第3回「鬼の哭く街にエロは必要なし!」 鬼哭街
18禁/PC/2002年3月29日)
開発・発売:Nitro+
プレイ状況:2周
あらすじ
間違った未来、誰かが選択を誤った世界。
犯罪結社・青雲幇の牛耳る上海に、一人の男が舞い戻る。
彼の名は孔濤羅。
かつては幇会の凶手(暗殺者)であり、
生身のままにサイボーグと渡り合う『電磁発勁』の使い手である。
仲間の裏切りによって外地で死線をさまよった彼が、一年の時を経て上海に戻ってみれば、
すでに裏切り者たちは幇会の権力を掌握し、
そればかりか濤羅の最愛の妹までもが辱められ殺されていた。
怒りに身も心も焼き尽くされた濤羅は、
その手に復讐の剣を執る。
仇は五人。
いずれ劣らぬ凶悪無比のサイボーグ武芸者たちを、
一人また一人と血祭りに上げながら、
孤高の剣鬼は魔都上海の夜闇を駆け抜ける。

コラム本文(執筆日:2005年1月2日)
  てなわけで第3回は初めてやったNitro+作品ということで「鬼哭街」です。以前からいわゆる萌え路線とは一線を画す作品を出し続け、なおかつ作品傾向が自分の好きな方向だったので、このメーカーには注目していたのですが、これで完全にNitro+信者になりました。
 
 まずこの作品を語る前にバックグラウンドとして存在する「武侠小説」の話をすべきだと思うので書きます。
 武侠小説は中国の小説ジャンルで百年以上の歴史を持ち、近代の大物としては金庸や古龍、梁羽生が三大家と言われています。内容は超人的(すぎてある意味、漫画的な)武芸を修め、仁義を大切にする侠客達の物語といった感じです。なので戦闘あり、恋愛あり、サスペンス調や歴史小説が混じってくることもあります。あと大抵は近代以前、皇帝制の時代が舞台となっています。
 侠客達はいわゆる気功を使い、馬よりも早く走ったり、なまくら剣で岩を叩き割ったり、超能力じみた強さを誇ります。あと拳法に名前がついてます。例えば「降龍十八掌」「追魂奪命剣」といったやたら強そうな名前。名前でノリが分かってくる方もいらっしゃるでしょうが、戦闘のノリはドラゴンボール(強さの天井付き)とか北斗の拳のノリに近いです。他の説明をすると、少林サッカーの中国拳法チックな部分。続けて映画で説明するなら、中国の歴史モノのアクション映画。(ジェット・リーの「英雄 -HERO-」とかはその典型)……と長々と解説するくらい武芸シーンは多いです。

 今作はそんなジャンルをそのまま近未来の器に流し込んだ作品です。あえて言うなら「サイバーパンク武侠小説」(?)。機械文明が現在よりも発達していてサイボーグが普通になっているのに、何故、揃いも揃ってカンフーやってるのかという部分には突っ込んではいけません。普通に銃弾避ける奴等ですから!音速超えますから!一部はガチで分身が見えるぐらい素早く動けますから!……ロマンを感じとり、お約束を理解してください。
 あと18禁なので、一応エロは存在するのですが……現時点で発売されているNitro+作品の中ではダントツで必要なし。必然性もないし、実用性も無し。国内PCゲーム業界の過半数をエロゲーが占めている現状で、名目上でもエロ入れないと駄目みたいな感じが伝わってきます。なんか歯がゆい感じが。
 それと今作は普通にゲームじゃあございません。選択肢無しなので読むだけです。演出特化紙芝居といった所でしょうか。一般的なエロゲの半分の値段なのはそのため。所要時間は5~6時間ほど。後、音声が無いのがとても残念です。後にCDドラマ出てますが、そのキャストでやってくれれば良かったのに……と惜しく思います。

 話としてはあらすじ通り孔濤羅(コン・タオロー)の復讐譚ですが、妹の瑞麗(ルイリー)はまだ完全には死んだ訳ではなく、肉体は死亡しましたが、敵のボス・劉豪軍(リュウ・ホージュン)が余興で彼女の精神を5等分(!)して5体のアンドロイド人形に注ぎ込んでしまいました。今回の復讐相手は皆1体ずつ持っています。濤羅もアンドロイド人形(何故か中国系ロリ少女)を連れており、この5体から精神を掻き集め、自分の1体に纏めれば、元の彼女になるかもしれないという背景があります。まぁこれは劇中で説明されますが。
 それでプレイした訳なんですが、まず感動しました。「日本人でこれほどの武侠小説を書ける奴がいるなんて」といった感じで。武侠小説は10年ぐらい前にようやく徳間書店から金庸全集が翻訳開始したのが、本格的な日本上陸だった記憶があります(武侠小説が原作の映画は結構来てますが)。ですが不発に終わってしまい、今では金庸全集が翻訳完了してしまったので、もはや日本人がこのような作品を書くことはおろか、触れる機会も少ないのだろうなと思っていた矢先でしたから。マジで嬉しかったですね。しかも武侠小説が、近未来でサイボーグやメカがウィーンガシャガシャとかいって動いてる中に融けこんでいたのは初めての試みじゃないかなと思うと非常に興味深いし、世界観がおバカ級のアクションにも一役買ってる辺り面白い。
 特徴としては文体も。今の所、最も硬派。というか文体だけなら武侠小説(ただし比較しているのは翻訳版だが)より硬派な気がする。無駄に詳細でも無く、適正という物を知っている文章ですね。それであの無茶なアクション描写をやってくれるんだから……無茶じゃないように思えてくる。リアリティは流石にないが、不自然では無い。凄い。見習いたい。燃える。ヴェドゴニアでも燃えたが、鬼哭街は全編燃える。
 肝心のシナリオですが、全編シリアスです。いつも通りつう感じもしますけど。主人公が強いのでゲームでいう真三国無双みたいな状態になりかねないかと思いましたが、敵も復讐相手の幹部達や元仲間を初めとして軒並みサイボーグ化&武術習得済みで手強く、また対サイボーグの必殺技・紫電掌を使うと内臓を酷く傷つけ、数週間(だったけ?)休まないといけないのに、連射せざるをえないなるものだから、「自分が死ぬまでに復讐を完遂しなければ」という悲壮感が強くなりながら全編を貫いていきます。後、徐々に明らかになっていく瑞麗の本性とそれに揺れる濤羅も良かったです。
 それらが纏まるラストバトルは見事としか良いようが無いですね。「最後に残ったのが剣だったとはな」という下りとかは、展開予想関係無く、凄く戦慄しました。ただラストバトルはそれらの遺恨が纏まるのが中心で、バトルとしては3人目・呉榮成(ン・ウィンシン)戦の方がぶっ飛んでましたね。あれは最初からフィニッシュまで面白かった。特に戴天流剣法の奥義を覚えた時とかは絶頂モノでした。うっひゃー!(アホ) 直接手を下す形じゃなかったのにはちょっと不満でしたが。最後にエンディングですが、まさかあんな風に締めるとは思わなかった。一見ハッピーエンドですが、細かい事を考えるとプレイヤーに複雑な思いを残します。瑞麗、話し方がちょっと怖かったし。無論、やる事も。う~ん。
 サウンドは今回、見事に脇役に徹していましたね。ヴェドゴニアはヴォーカル曲が目立ちまくっていましたが、今作はヴォーカル曲まで脇役に行ってしまった気が。でも全曲上質でした。
 
 総評としては、バトル物が好きな方は絶対購入すべし。ほんまにやばいで!



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