第5回「テクモがゲーム業界に送りこんだ奇手」 モンスターファーム
(PS/1997年7月24日)
開発・発売:テクモ
プレイ状況:クリア/ALL999作成/1083年前後
コラム本文(執筆日:2005年5月4日)
 このゲームを語ることはひどく難しい。今まで語ってきた他のゲームは鮮烈な印象があり、勝手に言葉が湧いてきた。だがモンスターファームというゲームは、「CDからモンスターを生み出すという独創的なアイディアが光る」とか「『育成』と『対戦』というヒット要素を持っていた」とか、これの題字のような、どこぞの記事の受け売りみたいな言葉ばかりが浮かんできて自分の言葉で語りにくい。
 つまらなかったわけじゃない。コツを掴めなかったというのもあるが、クリア→ALL999モンスター作成するにしても1083年は明らかに遅い。逆に言えばじっくりとプレイしていたし、それだけの魅力もあったと思う。
 このゲームについてまず思い出すのは全てがオリジナルだったことだ。少なくとも明確なパクリは感じず、独特の世界を作り出していたように感じる。主役であるモンスター・育成のシステム・対戦のシステム・攻略本必須なほど細かく作られた探索etc……
 そもそもテクモは独特のゲームを作る会社のようだ。PS時代からしか知らないので断言はできないけれども、PS時代から伸びてきたのは間違いないし、その成功の元がオリジナリティにあると言っても的外れではないと思う。ある意味新境地を開拓したDOA、影牢でブレイクした刻銘館シリーズや零シリーズ、競馬ゲームのギャロップレーサーも抱えている。
  モンスターファームはテクモが躍進するきっかけになった一本で、発売後は良い評判が徐々に広まっていた。自分も発売から半年ほど経ってから買った人間で、コツもよく分からないまま適当に育てて遊んでいた。それはそれで楽しかったし、Aクラスまでは行ったが、それから先がなかなかクリアできず、お金も中途半端に無いという時期が続いた。
 クリアしたのは、トロカチンEXが発売されてしばらく経ってから。他の薬が何かのステータスを上げる代わりに何かのステータスを下げるといったメリットが薄い効果だったので、どうせこれも凄い寿命が減ったりとか、あまりメリット無さそうと思って回避していたのだ。ところが気まぐれに参加した大会かなんかでトロカチンEXを貰い、使って目を見張ったというわけだ。これは衝撃的なアイテムだった。これのお陰でクリアできたと言ってもいい。この効果を知って取ったのが、ディノによる一撃必殺作戦。力と命中をトロカチンEXで鬼のように上げて、防御力も申し訳程度に上げた状態で、試合開始直後に超必殺技「炎の体当たり」に全てを賭けるといったものだ。かなりスリリングだった。ミスったらほぼ負け確定なので、リセットの回数が多いこと多いこと。まぁその甲斐もあって一気に4大大会全制覇して、後進のモンスターに道を繋げた。
 クリアした頃に攻略本を買い、クリアだけでは全然制覇できていないことと、隠し要素等の奥深さを知って相当に唸った。これ以降、探索全制覇・隠しモンスター解禁に全ての力が注がれることになる。ヘンガー製作過程が滅茶苦茶大変だったのが記憶に残っている。後は探索とゴースト作るためにリセットしまくったこととか。お陰で大体隠しモンスターやらアイテムも手に入ってきて、次にやろうと思ったのはALL999モンスターの作成。攻略本にはベニヒメソウの強さについて書いてあり、最強らしいというのは分かっていたが、テクノドラゴン(ドラゴン×ヘンガー)にすることにした。ヘンガーもドラゴンも作りたてなのがいたし、隠しモンスター同士の配合はロマンがある。それに成長のさせやすさはドラゴン種1位だし、確かガッツ回復もドラゴン種の中では1番だったと記憶している。そんなわけで、すぐに合成させたかというと違う。まずベースとなるドラゴンやヘンガーを育てることにした。相性が良いので最初からステータスが高いのが見込めた。さらに1モンスターにつき入手が1個に限定されている黄金モモ稼ぎと、資金稼ぎの意味も兼ねていた。今まで苦労しまくった高ランク大会のモンスターを屠るのはひどく楽しかった。
 結局、合成させて初期ステータスでCクラスにいけそうなテクノドラゴン――作った年にちなんで「1998」という名前にしていたが――が誕生した。その後の成長過程はもうひどく単純なので省くが、この頃には探索がクセになっており、シーズン毎に一度冬眠させて、探索専用モンスターを呼び出して探索していた。この結果黄金モモを5個か6個ほど集めて余らせてしまい、予算も20万溜めておいたのが、ALL999にした時も20万だった等、完成時は探索やりすぎを実感して苦笑してしまった。けれども4大大会を制覇させたり、勝利数を稼ぐために、冬眠→大会の週に解凍→大会全勝する日々を送ったりするのは充実していた。それに、モンスターファームをやり尽くしたという気持ちになるための儀式でもあったように今では思う。現にテクノドラゴンが寿命を迎えてリセットしようがどうしようも無くなった時、自分の中でもモンスターファームに関して一区切りがついたように感じた。その後は適当に対戦用モンスター等を作ったりしていたので完全な終わりではなかったけれども。
 
 モンスターファーム絡みで一番印象深い思い出を一つ。全国大会であるモンスター甲子園の予選が地元で行われることになっていたので、見学しにいったことがある。3対3のチーム戦であり、あまり広くないスペースは人で溢れかえっていた。大型モニターと普通サイズのモニターの2面で予選は行われていたので、全ての試合を完全に見ていたわけではないが、ALL999モンスター3体が前提でどれも見ごたえがあった。非常に和気あいあいとしていて、同時に真剣でもある空気が流れていた。小学校中学年ぐらいの男の子達がALL600程度で出てきていて、微笑ましくも場違い的な空気になったのは少し可哀相だったが、別に重要でもなんでもない。
 あれは準決勝だったか。大型モニターの方で行われていた試合で、双方ともALL999。片方はドラゴンかなんかで普通だったのだが、もう片方は最高に変わっていた。隠し種族であるが、技がクセがあったり使えなかったりして、なおかつ鬼のように成長させにくい「ラクガキ」。よく成長させたもんだと関心したが、試合はドラゴンが命中率高い技を中心に、最大の大技である「コンビネーション」も決める等、600ポイント以上の大差をつけて進めており、ラスト10秒切った段階でラクガキは「底力」(瀕死状態で発動し攻撃力が上がる)が表示されるぐらい追い詰められていた。誰もがドラゴンの勝利を確信していた。しかし、ラクガキはろくにガッツも溜めず遠距離から技を発動させた。確か超必殺技の「ローリングチキン」で、ゲーム中トップクラスに命中率が低く、攻撃力が高いという技だったはずだ。自分は当たるはずが無いと思った。だが、当たった。しかもクリティカルヒット! クリティカルヒット表示と共にダメージが表示されたその瞬間、会場は一気に湧いた。自分も思わず声を上げていた。ラクガキの超必殺技+底力+クリティカルヒット……。無論、大会に出るような人間がこれの価値を分からないはずもない。ダメージは今日見た中で最高だった。そして大逆転勝利!負けると思っていたチームメイトも大喜びしていたのを覚えている。
 この瞬間は非常に鮮烈だった。ここしばらく攻略本片手に理詰めで進めてきたこのゲームで久し振りの感覚であった。決勝までには例のラクガキも姿を消していたが、その瞬間のことは予選が終わってからもしばらく残っていた。後に友達もモンスターファームをやりだしたので、そこそこ対戦したが、この経験が念頭にあったことは疑いようがない。

 その後、間違ってセーブデータごと消してしまったショックで、自分のモンスターファームに対する関心は完全に途絶える。以後のシリーズ作品は一切手を出す事も無かった。だが思い出は今でも残っている。自分にとってモンスターファームと言えば、2でもリメイク版でもなく、初代PS版「モンスターファーム」なのだ。



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